記念すべき新婚旅行の南イタリアがメインだったような気がする 買い付け日記じゃなくてごめんね 第13回下 南イタリアのおまけ 13回の上はこちら 最新はこちら |
10月17日 パレルモ コンパートメントは、二段ベッド式のものではなく、座席を引っ張り出すと足が伸ばせるようになるお座敷風。 くたくただった私達は乗り込むなり、挨拶もそこそこに眠り込んでしまった。暑かったり寒かったり、雁之助がトイレに 行ったりで目を覚ます以外は爆睡。その私の腕をむんむんと引っ張って起こし、窓の外を指差す喜和子。 イタリア語でなにやら解説してくれている。大きな建造物が見える。「おおー、グラッツエ〜」何を見たか解らないが その配慮にお礼を言った。ローマから12時間後は世界で最も美しいイスラム都市パレルモに到着する。 メッシーナ海峡を渡る際には、ヴィッラ・サン・ジョバンニ駅で車両が切り離され、列車は丸ごと連絡船に乗せられる。 列車が連絡船に乗るなんて!死にかけでも絶対に見たかったのだが、暗闇の中軋むレールの音が鈍く響くだけで、 何かをやってる雰囲気しか分からなかった・・・。やがて空が白み始める。 身支度を整えて雁之助夫婦が列車を降りていった。私達もそろそろ・・・と、敬遠していたトイレへ行ってみる。 ラテンの国はなぜ鍵が甘いのか。メキシコ同様、トイレはけっこうキレイに使われているものの、鍵がうまくかからない。 さりとておしっこをしないわけにもいかない。一瞬で済まそう・・・。ごそもそごそもそ急げ急げ。 よし、もうちょっとでパンツ上げ完了、と言うところで残念!扉を開けられてしまった。 扉が開いたその瞬間にタックルする様に扉を押し返したのだが、その時、相手と目が合った。これまた残念。 若い男性であった。ううう・・・体がくたくたなうえに恥をさらし、もう私はボロ雑巾だ。 そんな事を知らないダーちゃんが、トイレから戻ってくる私の姿をパチリ。世界で一番淋しい顔をしているスナップ。 あまりに淋しそうで公開すると売り上げが下がりそうなので控えておきます。 シチリアで一番大きな都市パレルモ、とは言え駅はこじんまり。でもちゃんとマックがある。マック最高。 なんてたって座ってお茶飲むだけで10ユーロ(1400円程度)は確実に飛んでいくこの国において、座り賃取らないで お茶飲ましてくれるのは世界共通マニュアルのある大手チェーンだ。「どこで食ったっておんなじなのに、なぜ旅先で マック?」なんて言ったのはどの口だ。マック最高!ちょっとマックで休憩してから地球の歩き方を開き、今夜泊まる ホテルの目星をつける。何しろ仕事しっぱなしで上陸したので、何の勉強もしないで来てしまっている。「地球の歩き方 で周る旅行なんて、もはやツアーと変わらない」なんて言ったのはどの口だ。地球の歩き方ありがとう!最高! 今、地球の歩き方なしには生きられない。まじで。 駅からはやや遠いし、シャワーブースも笑えるくらい小さいが、ちゃんとお湯の出る清潔なバスルームと、へこんでない ベッドのあるお部屋へどうにか辿り着けた。一泊85ユーロ。服も脱がずにそのままベッドに倒れこんだ。もう限界・・・。 それでもお腹は空くのである。空腹で目を覚まし、やっと街へ出る気になった。何しろゴッドファーザーの街である。 少しでも明るいうちに夕食を済ませたほうがよかろう。駅に向かって歩いていく。いつかレストランの立ち並ぶエリアに 出るだろうと思っていたが、いくら歩いても食べ物屋さんがない。それどころか、店という店が閉まっている。 街が死んでいた。なぜ?!あ!そうか、今日は・・・日曜日! イタリアはシエスタ。ランチと夕食の間はどのお店も長い休憩を取る。そして日曜日も観光客の敵なのである。 気をつけてないと日曜日は飢え死にするぞ。 やっと見つけたバールは腹を空かした観光客で満席だ。うつろな目でウロウロしていると、ジャッポーネ!と声を かける人達。もう良い気分で酔っ払っているようだ。挨拶がてら近づいていくと、彼らがいっぱいひっかけてる酒屋の 後ろに小さなレストランが見えた。このエリアは生臭い。恐らく平日は魚の市場なのだろう。 レストランには前菜用の大皿が並んでいる。「ボナセーラ!」陽気なおやじが席を勧めてくれた。 屋根がかろうじて付いてるくらいの、本当に小さなお店だ。場所のせいでハエが絶え間なく飛び交っている。 メニューを見ていると大きなお皿を持って来て「その辺のもの食えよ」と言う感じで前菜を指差す。 もちろん英語は通じない。何も考えず適当にハエのたかってる前菜を取ると「ワインは?」と聞いて来る。 ダーちゃんが赤のハウスワインをオーダーすると、すぐに白ワインのビンに入った赤ワインを持って来た。 「さ、パスタは何にする?」「魚も食うだろう?」と、どんどんメニューを追加していく。あわわ、スィーもノも言ういとまなく 彼は厨房へ消えてしまった。らららら〜♪歌と共にジュジュ〜と何かを焼いている音が聞こえてくる。 壁に貼られているのは一面ピンクと黒のストライプ、サッカーチーム「パレルモ」だ。それから誰だか俳優さんの 撮影スナップ。歌いながらペスカトーレを持ってきた彼に、「これだあれ?」と聞いてみると息子だと言う。 おー!と言うと嬉しそうに笑った。それから私達がチーム・パレルモグッズを指差すと、姿勢を正し胸に手を当てて 「パッレールモ、パレールモ、パッレールモー!」と節をつけて叫んだのであった。おやじ素敵。 たった二人のお客にシェフはかかりきり。ほぼ勝手に作った料理をどんどん運んでくる。もうよしてくれ! 病んでなくても無理だぜこりゃ。前菜、パスタ、リゾット、スパーダ、トンノ、パン、ワイン、テーブルに載りきらない。 「ごめんなさい」と白旗揚げて、食後のカプチーノを頼むとエスプレッソを持って来た。 おやじはもうコースを自分で作ってちゃってんだ。 お会計をしてびっくり。ちょっと良いレストラン並に高い。つーか、おやじは良いレストランのつもりだし、 知らぬ間にとは言えコースを食べちゃったんだもんな・・・。「グラッツェ!」と元気に送り出された。 ぼ、ぼられたかい? とにかく彼のハリキリぶりを見るとぼったってのとはちょっと違う気がするんだよな。 久しぶりに腕が鳴るぜ〜たのし〜って感じで下心なさそうだったし、まずありゃ自分の実力を疑ってないよな。 良いコースを作ったつもりなんだと思う。で、美味しかったかと言うと・・・・うまくはない。だっはっは。 それに関しては騙された。 でも初めてイタリアらしい、と言うか南男のゴツイ勢いみたいなものに触れられてかなり楽しかった。 ね、それでいいやいいや。 |
11月1日 ローマ→日本 空港のチェックインは長蛇の列。何にまごついているのか、なかなか前に進んでいかない。 厳重なセキュリティーチェック、長い質問。だから仕方ないのかと思いきや、時分の順番が近づくにつれあながちそれ だけでない事が分かってきた。職員がだらだらしておる。私達にようやっと順番が回って来てスタッフの前に立っても ずーっと何か別の作業をしたり、空を見たりして、航空券を受け取らない。ちなみにとてもいい男だ。 イタリア人は予想外にかなりのせっかちだと言う印象があった。レストランではお皿が空くとすごい勢いで下げて行く。 まだ小量乗っていても何も言わずにさっさと下げちゃう。笑えるくらい早い。早く食べてって目でこっちを見てる。 早くお皿を下げて、サッカーを観たい時なんか「まだ?」って聞いてくる。 困っている人には肝要だし、大方のことに対して適当なのに、何かして欲しい時はすごく相手を急がせるのだ。 それでいて、駅のカウンターや観光局など、要請される側は「わざとか?」と思わせるほど遅い。けして焦らない。 要請する側はせっかち、要請される側はのんびり。人に厳しく、自分に甘い。 いい男がやっと搭乗券を発行した。後ろで待っている人は「早く早く!」状態なので、さっとカウンターを入れ替わる。 その時、座席が隣同士でないことに気付いた。仕方ないからその場で待って、後ろの人達の話が終わるのを待つ。 いい男は、我々を目の端にも入れないようにしてのんびり仕事している。次の人も「早く早く!」オーラを出していて 質問のある私達を入れないように競り合って来る。「ごめんなさい、ちょとだけ、すみません」と言いながら「ちょっと、 座席が離れてるんだけど!」と、やっと用件を伝えると「フフン、知ってたよ、ごめんね」と言った。・・・意味不明。 タイ航空の搭乗口へ行くと、たくさんのイタリア人が楽しそうに出発を待っていた。コロンとしたたくさんの体が、もぐもぐ 口を動かし続けている。待合席は食べ物だらけだ。全員が喋るのでとてもうるさい。 ふと気付くと、搭乗時間はずいぶん過ぎている。やがて、機内点検が長引き、搭乗時間が遅れるとの連絡。 その時驚きの現象が・・・。イタリア人は椅子から立ちあり、搭乗口に向かって行ったのだ。 手に手に搭乗券を持ち、うんさうんさ搭乗口の前に固まり始めた。日本人だったら、いや他の国の人もそうじゃない かな、ちぇーっと思って、椅子を確保するとかトイレに行くとか、時間をつぶす体勢に入るだろう。 「乗れない」と聞いたら「乗りたい」イタリア人。「飛ばない」と聞いたら「飛ばしたい」。そもそも、そんなに急いで なかったくせに、乗れないとなったら「早く早く!」オーラがシュプレヒコールを起こしている。 眉間にしわを寄せ「今日の会議行けないかもしれない!」「違う飛行機を用意してくれ、すぐ乗れないか!」など、 大きな声で電話をし始める人達も出て来た。それに対してタイ航空側は、もぅなーんにも感じていないって顔。 うぷぷ、まさにイタリア人対イタリア人。 散々騒いで「ほれ見たことか」くらいしか待たずに搭乗開始。乗れるとなったらまるで何もなかったかのような態度。 すごいせかしていた人が一番ビリで搭乗して来た。小さく二度驚く。 さ、ところがこっからがもっと大変。 私達の席は、避難扉のところ。前が広々とあいていて足が楽ちんでよい。しかし、有事の際こいつらを避難させる 手伝いをしなくてはならない。大変・・・自信がない。言葉の壁以上に、絶対「避難」に向かないよ、この国民。 隣は韓国人の女の子が一人。どうも彼氏と離れ離れになってしまったらしく、すぐに彼の横のイタリア人に相談して 席を替わってもらっていた。改めて隣へ来たイタリア人の男の子は、とーってもでかく、「うおーここ楽ちん」と 顔が喜んでいた。さっそく指さしイタリア語を駆使して「何処へ旅行ですか?」などコミュニケーションをとる。 彼フェルナンド(仮名)は立ち上がり後ろの席へ向かって「おーい、おれ日本人と話してる!」と報告した。 振り返ると、どーっと後ろ10列弱が「ウワハハハハ!お前日本人と話してるのか!」と爆笑している。 つい、私も調子に乗って立ち上がり、後方席に手を上げてご挨拶すると「うおー!」っとその10列が拍手したり、 手を振ったりして大盛り上がりだ。「あれって全部ファミリー?」「そう!」と嬉しそうなフェルナンド。 社交的な日本人を演じてしまったのが良かったのか悪かったのか、ファミリーは酔っ払うと次々に私達のところへ やってきては挨拶をしたり、自分の名前だけ言って(こっちのは聞かない)握手したりと寝ている暇もない。 他の乗客も同じ様なもんで、そんな騒がしさは一向に気に障らないらしく、みんなそれぞれ楽しそうに席を飛び 回って話をしていた。相変わらず顔を近づけて情熱的に話しているが、その相手は相変わらず知人じゃない。 もちろん知人とも喋るが、話し相手が知人以外にも広がるならもう収集はつきません。 さて、慌てん坊というか、せっかちというか、おっちょこちょいと言うか、ほとんどの人がトイレの扉の開け方が 分からない。流し方も分からずに扉をあけっぱなしでしっこして友達呼んで大騒ぎしている。 書いてあるのに、読まないのだ。読めないの?かもしれない。意外に英語弱いから。でも半分以上は面倒臭くて ちゃんと読んでいないんだと思う。叩いたり引っ張ったり、声を上げたり、誰かが奮闘するたびに、トイレに近い フェルナンドが飽きることなく説明してやっている。感心するけど、こう言う事には物凄く気が長くて親切なんだよなぁ。 かといってフェルナンドも歩き回るのに忙しいので、常にトイレ番をしてるわけじゃなく、やがて一人の男が トイレの扉に付いていた灰皿を引き抜いた。自ら大爆笑。スチュワートが飛んできて注意していた。 注意された直後、ついにひとつのトイレは扉が完全崩壊。まったく開閉不能に。 避難扉側の席は離陸の際、向かい合わせにスチュワーデスが座るようになっている。 今度はその席を勝手に引っ張り出してトイレ待ちをしたり、フェルナンドと喋ったり。またスチュワートが飛んで来る。 その席に座ったら怒られるとなると、避難扉の救助袋に腰掛けだした。それには「DON'T TOUCH」と大きく書いて あるのだが、もちろん気にしていない。またスチュワートが飛んできた。こんなに忙しそうな乗務員、見た事ない。 やがて機内は暗転し映画が始ると、長座に疲れた年寄りが徘徊しはじめた。一人、二人と席を立ち、暗闇の中を 歩行訓練している。二人の老夫婦が手を取りながら歩いて来て、広々スペースの私達の席の前へ来て立ったまま 休憩した。スクリーンのまん前、それもこっち向き休憩。「おい!」と思ったがこう言う事には気の長いイタリア人に 習って、しばらく我慢をしていると、やがて去っていった。そしてまた一人、おじいちゃんが歩いてきて同じ所に 立ったまま休憩。その時・・・パンパンパンパンとけたたましく手を叩く音がした。「ちょっと!映画観えないじゃない!」 と声を上げたのは、驚くなかれさっき同じ場所で休憩していた老夫婦だ。どほほ〜!お前らさっき同じことしてた やんけ!と心ハリセンで突っ込んだ。が、注意されたおじいちゃんはクレームが全然聞こえてない。ああ年寄り同士。 すると老夫婦はフェルナンドに目で「ちょっと言って」と合図した。「じいちゃん、映画観えねえってよ」とフェルが言うと、 ゆーっくりじいちゃんは振り返り、後ろの席のオーディエンスに向かってびーっくりした目で両手を合わせ 「ごめんね〜気付かなかったんだよ〜」とリアクションした。そうすると老夫婦も含め全ての人々が「いいの、いいの〜 お互い様よ〜」的な反応でじいちゃんを笑顔で受け入れていた。なんだ、急にいい人風味になって! 映画が終わると暗転のまま仮眠時間に。今度はヤングたちが動き始める。避難扉の前は駅前のコンビニ状態。 夜が深まっても、フェルナンドとむちむちガールズは、スペースにごろごろしながらケラケラケラケラいつまでも 話し込んでいた。うーん、うーん、「うるせえな!」と思わず日本語で毒づくと、ダーちゃんがぱっと身を起こして フェルナンドに向かって「ごめんね、もうちょっと静かにお話ししてくれないかな」と日本語で静かに言った。えらい。 そうするとフェルナンドが「お前達、もう少し静かに話せ」とむちむちガールズに注意をしたのだった。 彼女達もいつ怒られるか気にしていたはず。こちらの顔色を伺っている事はびんびん伝わってきていたから。 いやあ、学ぶ事が多いなあと思う。「言わなくては通じないのだよ」と言うこと。 注意されそうだな〜と思ったら、「言わずもがな」でその行為を止める日本人。でも注意されそうでも、注意して 来ないと言うことは「言うほどの事もないのだな」と受け取るイタリア人。彼女達はそれからもうずーっと静かに していた。映画の時も「ちょっとどいて!」って言ってよかったのだ。 ついこちらは、言われた方がどんな気持ちになるかとか、面倒な事が起きないようにと耐えてしまうが、 イタリア式ではそれって間違い。思ったらすぐ言っていい。で、相手が気付いたり、謝ったりしたら、後を引かずに ハイおしまい。「映画観えない!」って注意した老夫婦も事を荒立てる気などなく、注意されたおじいちゃんも それで深く傷ついてしまったわけでもないのだ。声を出して貰えたから「恨まれない」し気付いてくれたから 「映画が観えた」お互いにありがとね、って事だ。 いつでもどこでも楽しそうに話すこの人達。ただおしゃべりを楽しんでいるだけじゃなくて、言葉を持つ喜びや、 他人に対する信頼感を、そうしながら温め続けているのかもしれない。 「思ったことは言って良い」とても難しいことだけど、相互理解のうえではとても気持の良い事だと思う。 きっと彼らが日本に来たら、言わなくてもしてくれたり、不快な事を言う前にやめてくれたりする事に対して 新鮮な気持ちよさを感じてくれるんじゃないだろうか。それぞれ違って気持ち良く、どちらが上でも下でもない。 人々が作るその世界の「おおよその気持の持って行き方の流れ」みたいのを見ると、目からうろこが落ちる。 その落ちる瞬間が気持ちいい。その気持ち良さが旅の全てなんだな。と、キレイに思ったのはうそじゃないが 最後の最後にイッターリア〜を体験し続けた10時間。 バンコクに着いたらほっとした〜。 |