かなり、ガツンと来ました 第9回 メキシコの巻・後編 |
11月04日(月) オアハカ−メキシコシティ さようならオアハカ いよいよ最後のホットケーキ・・・そしてレイ・オー・ベイビーとも今日でお別れだわ。 奴は目が合うとさっと手を挙げたり、さり気なく目配せをし、帽子を持って小銭を貰いに廻るときも「お前達からは、とらないぜ!」とばかりに素通りしてくれる。私としては最後だから急接近したいのだが・・・。 なのに体は我が儘で、ベイビーと接触できそうなその直前にうんこがしたくなって席を立ってしまった。 帰って桜井に聞いてみると「もう〜メロメロ〜」と一人で堪能したようだった。悔しい。 出発ぎりぎりまで探していたが、やっと良いアレブリヘスに出会えた! 良い値段の物なので、たくさんは買えないのだが、それでも出来るだけ質と値段のつり合った物を探す。 それから念願だったオアハカピーナッツも買った。 これは、ビールを注文すると付いてくるおつまみなのだが、すこぶるうまい。私は下戸なのでビールが飲めない。 だから桜井にビールを飲んで貰って、このおつまみをちょうだいしていた。 日本の物と比べてやや小粒のピーナッツ、カリッと揚げたにんにく、それを丸ごとの唐辛子と粗塩でざざんと炒めたようなものだ。辛くてピーナツカリカリ、しょっぱくてにんにくシャリシャリ。絶対これ買って帰る! 「チリのピーナッツってさ、どこで売ってるかねー」と、いつも道を教えてくれる乾物屋の女将さんに聞くと「うちにあるけど」と、、、ありゃ、失礼しました。 女将さんの手作りおつまみは、ピーナッツもまるまるしていて、より美味しかった。1kgばかり購入。 重たいので、半分はシティのドミ仲間にふるまうとしよう。 そして、桜井お気に入りのおばちゃんのタコスをテイクアウト。 タクシーを待つ間に食べようね、なんて言ってたのに出来上がりを待ってたら結構良い時間になってしまった。 ホテルへ飛んで帰って、タクシーを捕まえたい旨フロントのお姉ちゃんに言う。 バスターミナルのトイレっていかんせんなんだよなあ、と思い、やはり一度行っておこう・・・と 私が「トイレに行って来てもいいかな」という声と共にお姉ちゃんがタクシーを捕まえてしまった。は、早すぎるう。 「トイレはバスターミナルで行きなよ!!」とえらそうに桜井は言い放つと、駆け足でタクシーに直行してしまった。 なにを!君ね、荷物を積み残しているんだよ、君は。 炭酸でべたべたになったジュースの瓶とか、汁の垂れたタコスのビニールとか、カバンとか帽子とか、こんな子供みたいな荷物はぜ〜んぶ、お前のだが?! むーっとしながらそのべたべたを持って私がタクシーに乗り込むと「おせえな」という視線から一変「きゃー!忘れてたー、ごめ〜ん、えへへへへ」とアニメ声で笑う。いつか殺す。 とにかく、私が大人だから喧嘩しないでシティへ着きました。 |
11月05日(火) メキシコシティ 修学旅行 ドミの平均年齢がぐっと上がっている・・・。中にはゲバラの残党もいるくらいだ。 ゲバラは、主に60年代「新しい社会主義」を打ち出そうとメキシコ、キューバ、などで活躍した革命家だ。 傲慢なヨーロッパ中心主義の歴史観や世界観に反撃を試みたゲバラは、今でもTシャツになったりポスターになったりして人々から愛されている。このドミにいる風間さんも、当時そのゲバラが説く新しい社会理念に共感してメキシコへ渡ってきたのであろう。今はもう60過ぎの良いおじちゃんだ。 それから吉田さん親子。アメリカで大工として働いていたが、いつの間にかビザ切れしていて、その不法滞在中にパスポートや全財産を車ごと盗まれたという。早い話がメキシコへ逃げてきたのだ。 吉田おとっつあんの方は風間さんと同い年くらいか、息子の方は私と同じくらい。 あと、中年自転車乗りのセニョール、先生と呼ばれている高校教師をクビになったってこっちに来た人、それからなんとなく追いつめられた感じのする子連れの謎家族。子供が小学校にあがるまで旅を・・・と言っていたが、それにしては暗いのだ。3家族もドミにいるってのもすごいですが、もう1家族は明日から管理人になる予定の2歳のかわいい坊主オリオを連れて旅している若夫婦、かおりちゃんとしげおちゃん30代前半。 それから退院したばかりで養生中のちーちゃん、明日旅立つ予定の管理人高木君、昨晩到着した悪そうなタカシと良さそうなタカシそして我々・・・と、いったところでしょうか。あらかたみんな何かから逃げてますなあ。 そんなうらびれた感じで、初めてここに来た時の戸惑うばかりの「若さ」はみじんもありません。 朝食と共に、革命・芸術・宗教・文明的テーマでお話が弾んでいる。 もうこりごりな体育系自転車セニョールや、すっかり風間さんを馬鹿に仕切ってる先生は、早々に退散。 話し込んでいる吉田おとっつあんと風間さんの間に我々も加えて貰って、頭をゆっくり回転させながら脳のリハビリです。風間さんはアル中で手もぶるぶる震えちゃってるし、通風で膝も痛いという。 今でこそこうやって人と交わっているが、このドミで暮らしていてもほとんど引きこもりだったそうだ。 革命家も角が取れたと言うことか・・・。当時学生運動家だったりした人は、大きな志と無力感の狭間で自分を落とし込み抜け殻症候群的になってしまう人が多い。 しかし、癖はあるもののこういう老いた狼のような人を私は嫌いではない。 話をする風間さんが時々キラっとした目をするとちょっと嬉しくなる。受け手の吉田おとっつあんも、そんな風間さんと話すのだから、アメリカの件でしおれて飲んだくれてた朝だのに一生懸命議論していた。 アル中と飲んだくれとの朝食・・・それは酒臭い。 オアハカから持ち帰った荷物と、ドミに残していった荷物、これで今回の買い付けはほぼ終了といえるボリュームになった。これをいかに持って帰るか頭が痛く、とにかくこれを収納できそうなカバンと今日の獲物シルバーを買いに行くことにした。とっても危険な所へ行くので、日が一番高い時に出かけることにする。 バスに乗っているうちに桜井の道の記憶がよみがえり、あほみたいにデカいカバンを早々にゲット。 また、渋滞が災いしてか桜井が賢かったのか、シルバー店の並ぶ一角も恐ろしいほどスムーズに発見。 店は一件ずつかなりきちんとした宝石店の作りで、品質にも安心感があった。面白かったのはお金の引き渡し方法だ。 接客自体は普通の宝石店と変わらないが、お金を渡すときだけ電話ボックスのような人一人はやっと入れる鉄の箱へお店の人が入る。お店のお兄ちゃんが裏側からその鉄の箱へ入り施錠する。 私のとい面に付いている小さな鉄扉からお兄ちゃんの手がにゅーっと出て来た。 こちらが合計金額の書かれた紙とお金を渡すと、ささっとお釣りが返ってくる。 受け渡しが終わると、お兄ちゃんはそこから出てきてまたしっかりと鍵を掛け、振り返って「ありがとう」と笑った。 そうしてやっと私は指輪やピアスを受け取る事が出来る。 強盗防止のそのボックスレジをみるだけで、この辺りの治安の悪さが伺える。とはいえ、ダイナミックなメキシコ人のことだから、盗むとなったらお兄ちゃん入れたまま箱を担いで出ていっちゃうかもね。 あまりにもスムースに仕事が終わって早めにドミへ帰ると、2階のトイレが詰まっていると言って、しげおちゃんが例のぺこぽんを持って立っていた。しげおちゃんは、うちのセニョリータセーターのページで子供を抱いて立っているその人。ジョー山中ファンの私にはたまらないのだが人の夫。 つい「何持っても格好いいね〜」と言ってしまった。 我が家ではうんこが詰まると熱いお湯を3リットルくらい便器に流し込んで、しばらくしてから流すようにしてる。 お湯でうんこが溶けるんだよ。ままか秘伝のうんこ流し。レッツトライやってみて!としげおちゃんに言うと、沸点の低いメキシコのお湯をたんまり抱えて2階へ上がって行った。しばらくすると「成功した!」と口々に言う周囲の朗報と共にしげおちゃんが帰ってきたが、うんこの湯気にあたってしまったらしく、遠くを見ていた。 そんな危ない感じもますます格好いいなと思った人の夫。 それからしげおちゃんの奥さんでオリオのママのかおりちゃんや、退院してきたちーちゃんが買った物を見たいと言ってお部屋に遊びに来てくれた。みんな若造が旅に出てしまって鮮度は落ちているものの、年輩はその分ちょっと密度が濃くなったのかなんだか修学旅行のようで楽しい。 そんな中、今日は「お好み焼きパーティーをするぞ」と先生が言ったので、みんな何も考えずに晩御飯の時間はわいわいと食堂へ降りていった。先生自慢のお好み焼きが振る舞われる。 とっても美味しいのだが途中で気が付いてしまった。大部分の人達がお好み焼きパーティーに誘われていたが、先生は若干名に声を掛けていないのだ。風間さんと、吉田親子、良さそうなタカシ君。悪いタカシは参加しているのに。 その人達は大テーブルを占領している私達の目の前で、それぞれ自分のご飯を作っているのだ。 呼ばれているより、呼ばれていない人の数が少ないって言うのは集団でするいじめみたいだ。 かなり気分が悪くなる。そこへ先生は「これが今日のスペシャル!」と言って大きなホールケーキを持ち出した。 一同ワーっと言うが「誰かさんのお誕生日に何もしなかったから」と言ってちーちゃんを見た。 ちなみにちーちゃんの誕生日は5月だ。もう約半年経っている。 ちーちゃんが入院している間も先生はせっせと食事を差し入れしていて、つまりはこれは先生がちーちゃんによく思われたいが為の「ちーちゃんのお誕生会」だったのだ。我々は知らぬ間にいじめには参加してるは、お誕生会には参加してるわで忙しいなあ、おい。そして戸惑うちーちゃん。かわいそう。 そのケーキが切り分けられた時、丁度追いつめられたような謎家族が帰ってきた。 「子供にケーキをやらなかったら、即お前を殺す」と思っていたが、周りの気遣いの方が早く子供は無事にケーキをゲットした。オリオと並んでほおばっている。 しかし、そこまでしてモテたいかっつうより、だからお前はモテないんじゃ・・・とその場の全員が思っていたことは言うまでもない。小さな日本ここにあり。 |
11月08日(金) メキシコシティ バイバイメヒコ最終回 誰も起こさないように、そーっと出ようと思った早朝なのに、お見送りをしてくれようと同室のちーちゃんもようこちゃんも起きてくれた。寝ぼけてるようこちゃんに「もう行っちゃったよ」と桜井が言うと「しまった〜失態や、最悪の失態や〜」とノーメイクで狼狽するようこちゃんはかわいかった。 60kgの荷物を自力では動かせないので、前の晩にしげおちゃんに頼んでおいた。 ちゃんとしげおちゃんもかおりちゃんも起きて来てくれた。静かに荷物を下階に降ろして、ドミを出る。 外はまだ薄暗く、空気が青い。 「この時間のタクシーはボルからなー」と良いながらしげおちゃんがタクシーを捕まえてくれた。 桜井が交渉すると何という事も無げにメーターで行ってくれると言う。 「さい先良いじゃん」と小さなワーゲンに無理矢理荷物を詰め込んだ。 「それじゃ!元気で!私はいつもHPにいるので!」「またね!」みんな小さくなるまで手を振ってくれていた。 そして私の隣には桜井。桜井はまだまだ旅を続けるつもりでいるが、私を放っておけないので付いてきてくれている。 「へー、そりゃご苦労さんだな」と先生にも言われてた。 この国はまるっきり初心者の私だが、そんな煽りに乗って一人で動く程アホではない。 旅人にはみんなそれぞれ得意な国があって、ガチンコすると自慢話と武勇伝合戦になる。 そう言うのってとっても面倒くさい。 特にドミに長期で滞在している人達は、その話の為にいるみたいにずーとさるかに合戦してる。 どうにも太刀打ち出来ない初心者の自分が、かえってすごく楽ちんで良かったなあ。 空港までさほど遠くもなく、道もスカスカ。こりゃ時間がいっぱい余るかなと思いきや、巨大な荷物を持つ乗客の長い長い行列が出来ている。でも、私の荷物が一番大きいかも・・・と少し不安になった。桜井が前に並んでいるおばちゃんと喋っている。 「あつこちゃん、このおばちゃんの荷物持ってみい。100kgあるかもって本人は言ってるぞ」と大きめのスーツケースを指さした。おばちゃんも持ち上がらないリアクションを見せてくれる。 なんだか不安が顔に出てたらしい。1時間ほどかけてやっとチェックインカウンターへ進めた。 たくさん買ったシルバーも金属反応せず、心配事は一気に解消されていった。 入国審査も問題なし。と、ここにもまだ桜井が。 ウズベキスタンで入国審査をビカちゃんと一致団結で乗り切ったことを思い出す。 またしても、一緒に出国しない友人の保護のもと無事に全手続きを終了した。 「30分くらいだけど、お茶でも飲むか」スターバックスの珈琲を飲む。「精算しようぜ」と私がタクシー代と珈琲代を渡そうとしても桜井は受け取らない。 「なんだよ、訳わかんないな、だって、帰りのタクシー代だって私が持つべきなんだぞ」と言っても受け取らない。 どうやら昨日のステーキを申し訳なく思っているようだ。もう30分しかないのに、そんな事しててもしょうがない。 日本に帰って埋め合わせるから、とお金を引っ込めた。 「これで最後だね」なんて言うと恋人とのお別れみたいだけど、ホントにちょっとそんな感じだ。 高校時代は同じ教室にいたものの、まったく違う友達と遊んでいた私達。 でもなぜか旅を決めたときに思った「こいつなら大丈夫」と思い、また確かに旅はとても楽しいものだった。 「本当にお世話になりました。とても楽しかった」 いろいろすれ違いがあったとしても、最後に素直な感謝を口に出来ることが嬉しい。 一服してうんこしたら30分なんてあっと言うまだ。荷物を背負ってエスカレーターに乗った。 「じゃあね!」桜井が遠くなる。 すぐに日本で会えるのに、ちょっとぐっと来てしまった。 最初に会った時から18年。 お互い30になるまで顔も見てない。そんな変な時間軸の中で出会ったり別れたりする人だから、 ここという場所とこの時間の桜井にはもう会えない、と思ってしまったのだ。当たり前のことだけれど・・・。 数日後、桜井からメールが届いた。そこには、こう書いてあった。 あなたが去った後、いまだに私は「私」ではなく「私たち」という 動詞をつい使ってしまいます。」 桜井・・・・ それを言うなら動詞ではなく主語だろう・・・ ※スペイン語は、複数に対しての動詞があるので、間違いじゃないんだって。 |